シアトルプロアマリーグの開幕戦で指揮を執ったショーン・ケンプとゲイリー・ペイトン
「この街のバスケットボールは、死んでいない」
男子バスケットボールの「シアトルプロアマリーグ」が9日、シアトル・パシフィック大学でオールスターゲームを開催した。同リーグは、NBAのシーズンオフに合わせて全米各地で開催されるサマーリーグの一つ。毎週末シアトル・パシフィック大学を拠点に、白熱の戦いが繰り広げられている。シアトル出身のジャマール・クロフォード選手(ロサンゼルス・クリッパーズ)といった現役NBAプレイヤーが数多く参戦することでも有名だ。
今年のオールスター戦には、2015年のNBAダンクコンテスト王者のザック・ラヴィーン選手(ミネソタ・ティンバーウルブズ)も参戦。レントン出身の19歳は試合でも驚異の身体能力でスラムダンクを連発、ファンの度肝を抜いた。
同リーグの「顔」であるベテランのクロフォード選手は、世界最高と称されるクロスオーバーでディフェンスをきりきり舞い。超一流のドリブルテクニックで魅せた。他にも、アイザイア・トーマス選手(ボストン・セルティックス)やスペンサー・ホーズ選手(シャーロット・ホーネッツ)といったシアトルゆかりの選手たちが活躍し、会場は終始熱気に包まれていた。
主体となるのは、地元の若手アマチュア選手たちだ。彼らにとっては、いわば登竜門という位置づけになるのだろう。現役NBAプレイヤーを相手に、自らの実力を試す絶好の場となっている。「ここで結果を残して、上(=NBA)に行ってやる」という気合いが感じられ、公式戦さながらの「本気」のディフェンスを見ることができる。
会場はごく一般的な大学の体育館で、選手との距離感は想像を超えるほど近い。選手たちが観客席に姿を見せることもしばしばだ。試合中、ベンチに座るクロフォード選手は笑顔でサインや記念撮影に応じていた。入場料も10㌦(子供は5㌦)で、内容の充実度を考えると破格と言えそうだ。「近さ」と「安さ」こそが、シアトルプロアマリーグの持つ最大の魅力といえる。余談だが、筆者はトイレで上述のラヴィーン選手に遭遇した。選手と観客が同じトイレを使うことなど、通常は考えられない。
7月10日にキーアリーナで開催された開幕記念試合では、ゲイリー・ペイトン氏やショーン・ケンプ氏といった歴代のスター選手たちがコーチとして指揮を執り、深夜近くまで声援は鳴り止まなかった。2008年に「NBAチームを失った街」となったシアトルだが、バスケットボールを愛する文化は今なお深く根付いていると実感する。
1996年、マイケル・ジョーダン擁するシカゴ・ブルズとNBAファイナルで激突し、死闘を繰り広げたシアトル・スーパーソニックス。栄光の時代を知るかつてのスーパーソニックス党たちは、バスケットボールの興奮と歓喜に飢えている。シアトル・プロアマリーグの存在は、彼らの欲求を満たし、同時に「NBAチームを取り戻そう」という声を高めている。
スーパーソニックスがサンダーに名前を変え、オクラホマシティーへ移転してから今年で7年となる。皮肉なことに、サンダーは移転先のオクラホマシティーにすっかり定着し、リーグ屈指の強豪チームに変貌した。一方のシアトルは、子供たちが夢や憧れを抱く一つの指標を失ってしまった。その損失は計り知れない。
かつてダラス・マーベリックスなどで活躍したシアトル出身のジェイソン・テリー選手は、ペイトン氏のプレーに憧れ、NBAを目指したという。NBA史に名を残す稀代のクラッチシューターは、シアトルで「バスケットボールのいろは」を学び、成長したのだ。今年のオールスター戦にも参戦したテリー選手は、子供たちに積極的に話しかける姿が印象的だった。お気に入りのバスケットシューズで走り回る子供たちの姿に、自らの少年時代を重ね合わせていたのかもしれない。
「シアトルは僕のバスケットボールの全てだ」とクロフォード選手は話す。この街のバスケットボールは、死んでいない。クロフォード選手のスーパープレーを間近で見た子供たちが、いつかNBAプレイヤーになって帰ってくる。シアトル・プロアマリーグに大きな可能性が見えた。
(記事・写真 = 海老 桂介)